6/8夕の、あの、大飯再稼働 首相会見をうけての、6/9(ロックの日!)の東京新聞記事を数点。
長いですが、重要な内容だと思いますので、お時間を御キープの上、ぜひご一読を。
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「野田首相 詭弁並べ原発必要性」2012/06/09(東京新聞)
野田佳彦首相は八日の記者会見で、国民生活への悪影響を避けるために大飯原発再稼働の必要性が高い事を訴えた。だが、必要性の根拠とした内容も冷静にみれば、そもそも再稼働と関係のないものやその正当性が疑問視されるものも入り混じっているのが実情。電力危機と原発の優位性を訴えるために詭弁を並べ立てたとの印象が拭えない。(岸本拓也記者)
■石油ショック級の痛み ~石油火力は1割程度
「石油資源の七割を中東に頼っており、輸入に支障が生じれば、かつて石油ショックのような痛みを覚悟しなければならない」と訴えた野田首相。
原発停止に伴い火力発電への依存が増加した事を念頭に置いた発言とみられるが、現在の火力発電の燃料は石炭や液化天然ガス(LNG)が主体で、価格の高い石油火力は一割程度しか使っていない。
そもそも関西電力の原油輸入先はインドネシアとベトナムが95%(二〇一〇年度実績)を占める。中東の石油輸入に支障が生じれば、国民生活への影響は大きいことは間違いないが、関西電力の電力需給に限って言えば、石油ショックと同列に語ることの根拠はない。
■安価で安定した電気 ~コスト考えると安くない
野田首相は「安価で安定した電気の存在は欠かせない」と原発の優位性も強調。ただ、原発の立地や推進などのために、国民の税金から多大な交付金や補助金が投入されたコストを考えると、決して安価な電源ではない。これは政府のコスト等検証委員会でも証明されている。
さらに、万が一の事故の際の被害額が大き過ぎるため、保険の引き受け手がなく、一般事業なら当然に掛けるべき民間保険の費用も事実上免除されていることも見せかけの安さだ。いったん事故が起きれば福島第一原発事故の損害は被害者への賠償や廃炉、除染で数十兆円に上るともいわれ「原発が安価」とはとても言えない。
■電力不足15%を強調 ~検証期間わずか3週間
野田首相は「関西での15%の需給ギャップは極めて厳しいハードル」と述べ、二〇一〇年夏並みの猛暑では「15%」の電力が不足する事を強調した。
第三者の検証委員会を経た数字ではあるが、検証期間はわずか三週間足らず。委員からは「検証できることは限られていた。省エネ効果などはまだ拡大できた」(松村敏弘東京大教授)との声も出ており、専門家の知見が十分反映されていないとの見方が根強い。
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【核心】「大飯原発再稼働 首相会見」2012/06/09(東京新聞)
関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)再稼働問題で、八日に記者会見した野田佳彦首相、長い間、再稼働が政治問題となってきたが、首相がこの件に特化して会見を開いたのは初めて。電力需要が高まる本格的な夏が近づく中、福井県の同意を引き出すために、やむを得ずマイクの前に立ったのが真相だ。再稼働で国民生活を守ることが自らの責任と語ったが、その発言になんら裏打ちはない。(関口克己・中根政人記者)
■精神論 ~「首相は権限と責任を取り違えている」
首相は二十分間の会見で「責任」「責務」を繰り返した。
「国政を預かる者として、人々の暮らしを守るという責務を放棄できない」と力説。「国論を二分している状況で一つの結論を出す。これは私の責任だ」とも語った。
首相は、再稼働反対論が強まる中、批判を覚悟で決める事を政治家の「責任」だと訴え、理解を求めようという思惑が透けて見える。だが政府高官は首相の発言を「これまでの発言内容を出ていない」と冷静に分析する。
実際、首相の言う「責任」には根拠がない。精神論に過ぎない。再稼働した原発で万が一の事態となれば、東京電力福島第一原発事故でも明らかなように、放射性汚染は広範囲に広がりかねない。その際の責任を首相自身が負い切れるものではないし、具体的な責任の取り方もない。しかも、今後いつまで政府の責任者でいるのか分からない首相が、再稼働後の原発について責任を負い続けるのは不可能だ。
首相は、再稼働判断の最終責任者が自分だという論理で「責任」と語っている。だが、民主党内からも「首相は権限と責任を取り違えている。膨大な住民から平穏な生活を奪う事故を起こしかねない再稼働に、なぜ踏み切れるのか」と疑問の声が上がる。
■不本意 ~「国民でなく福井県向け」
そもそも首相は、この日の会見を行うことは本意ではなかった。
「頭の中はすべて消費税」(首相周辺)の首相にとって、大飯原発への関心は相対的に低い。四月十三日に再稼働方針を決めた時ですら、国民に向けた説明は枝野幸男経済産業相に委ねた。
その首相がこの日会見を行った理由は、はっきりしている。福井県の西川一誠知事から「同意」の二文字を引き出すためだ。
西川氏は本来、再稼働容認派だが、京都府や滋賀県、大阪府市が反対姿勢を示す中で身動きが取れなくなっていた。関西広域連合が五月三十日に再稼働を事実上容認しても、西川氏は再稼働反対の世論が依然強い事を気にして「首相が国民に直接訴える」ことを要求していた。
首相は、西川氏の発言録を手に困惑を隠さなかったという。だが七日、枝野氏や細野豪志原発事故担当相らと会談した際、「これ以上、再稼働を遅らせることはできない」との声に押され、会見を設定した。言い換えれば会見は形式的には広く国民に訴える内容だったが、実質的には西川氏一人に向いたもの。首相は「関西を支えてきたのが福井県とおおい町だ。敬意と感謝の念を新たにしなければならない」と持ち上げてみせた。
西川氏は首相の発言を受けて「思いを国民にしっかり語っていただいたと重く受け止めている」と評価。首相は一定の目的は達成したともいえる。だが肝心の国民には会見は、どう響いただろうか。
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【こちら特報部】「大飯再稼働 首相が方針」2012/06/09(東京新聞)
野田佳彦首相は八日、原発の再稼働方針をあらためて訴えた。「暫定はない」と橋下徹市長を追い込み、「国民生活が大切だ」と再稼働に慎重な民主党の小沢一郎を皮肉った。主張の柱は、電力不足による計画停電の回避だ。だが、関西の首長らが大飯原発再稼働で譲歩した後も「停電恫喝」は続いている。本当に原発抜きでは、計画停電は避け難いのか。(小倉貞俊・中山洋子記者)
※デスクメモ 野田首相は原発の安全に「絶対はない」と言った。創意工夫による「原発ゼロの夏」という挑戦にも絶対はない。では、どちらを取るべきか。使用済み核燃料は処理できず、再稼働してもあふれるのは時間の問題だ。道はこうある。希望のある挑戦か、絶望しかない安寧か。敗北感に浸るにはまだ早い。(牧デスク)
■計画停電で「恫喝」
「計画停電を回避するために最善を尽くす」。野田首相は八日、記者会見でこう強調した。
「計画停電」は原発再稼働の切り札だ。政府が先月十八日に発表した今夏の電力需給対策にも、「実施しないことが原則」としつつも「大規模な電源脱落のために準備する」ことが示された。
再稼働阻止を訴えていた関西広域連合の首長たちが”腰砕け”になったのも、計画停電の恐れだった。「環境派」で知られる滋賀県の嘉田由紀子知事ですら、「『計画停電は困る』という地元経済界からの強い要請」が容認をのむ最大の理由になった、と吐露した。
実際、滋賀経済同友会の小林正彦事務局長は「計画停電実施となれば、企業へのダメージは深刻だ。『(計画停電が)実施されないなら、再稼働は仕方がない』という声は大きい」と話した。
それほどの不安感を与えられる計画停電は、そもそもどんなものなのか。
電力需要が供給を上回った際に起きる大規模停電を防ぐのが目的で、事前に地域や時間帯を予告する。東京電力管内では昨年三月、計十日間にわたり実施された。一回当たり三時間ほどの停電だが、市民生活に多くの混乱をもたらした。
だが、この時の計画停電が本当に必要だったのかについては議論の余地がある。環境エネルギー政策研究所は当時、「大口契約者と結んでいる(電気料金を値引く代わりに電力使用を抑えてもらう)『需給調整契約』を生かせば、計画停電を強行しなくても電力は足りる」と試算していた。
ちなみに今夏の東電管内の電力供給力は、昨夏から柏崎刈羽原発の5~7号機が止まったにもかかわらず、約三百万キロワットも余裕が出る見通しだ。
不可解な部分もある。
政府は今夏の関西電力管内での電力不足で、”最終手段”である計画停電ばかりを持ち出すが、昨夏に東電と東北電力管内で発動された「電力使用制限令」については今回、見送っている。
企業に節電を義務付ける同制限令は昨年七月、政府が約二ヶ月にわたって発動。大企業など大口需要家に電力使用量の15%削減を義務付けた。それが今回は見送られ、最初から一般家庭や中小零細企業にしわ寄せが集中する計画停電が、前面に押し出された。
自然エネルギーの普及に取り組むエナジーグリーンの竹村英明副社長は「今夏の電力需給は、政府も関西電力も昨年から分かっていたはずだ。にもかかわらず、火力発電の整備を意図的に避け、計画停電をちらつかせた。再稼働ありきの『脅し』にしか見えない」と語る。
■節電議論すり替え
気になるのは、関西広域連合が覆い原発、4号機の再稼働を容認した後も、計画停電の”合唱”が続いている点だ。
関西電力を含めた電力会社は、計画停電を大仰に準備。緊急時のマニュアル作りに過ぎない「計画停電案」を振りかざす。
これほど「計画停電」が取り沙汰されること自体に違和感はないか。
政府は原発なしの夏を「節電努力」で乗り切れるとしていた。夏の電力需給対策では、夏の約二ヶ月間、関西電力管内で猛暑だった二〇一〇年夏より、電力消費を15%程度抑えるよう企業や家庭に節電要請することになっている。中部、北陸、中国、四国電力にも節電を求め、その浮いた分を関西に送るという支援策もまとめていた。
この間、関西電力は、改善策を小出しにしている。四月には不足分を16・3%と説明していたが、その後に14・9%に圧縮。大阪府市エネルギー戦略会議で見積もりの甘さを再三追及され、五月中旬には、不足分を約5%にまで減らす試算を同会議に提示していた。
他の電力会社から最大百六十二万キロワットの供給を受けるほか、自社の水力発電で二十二万キロワット、卸電力取引所から十八万キロワットなどと供給を上積み。企業との需給調整契約を広げて需要を減らし、緊急時に企業から節電分を買い取る「ネガワット入札」まで考慮した。
「再稼働なしを前提にして、なんとかなるはずだった」。同会議のメンバーで富士通総研経済研究所の高橋洋主任研究員は振り返る。「不足幅はまだ縮むはずだった」
高橋氏は需給見通しの前提になっている日本全体の最大需要の計算が、大き過ぎる点にも着目。
「各電力会社の最大値を合算しているが、同じ日の同じ時間帯に全国のピークが一致することはない。現実には存在しない数値で、西日本のピーク需要は下がるはずだ」
同会議で、関西電力の需給見通しの甘さを指摘していた環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長も「節電目標に向かって議論をしていた。十分乗り切れるはずだった。しかし、先月に入り、唐突に節電を無視した『計画停電』の回避に話がすり替わった」と説明する。
この転換が関西の企業を一気に怯えさせた。それが首長たちへの圧力となり、野田首相も会見で繰り返した。首相は「期間限定」という妥協案については「夏場限定の再稼働では国民生活を守れない」と拒否した。
この一言は、関西における夏場の緊急時のための再稼働という大義名分を超え、その真意がなし崩しの原発再稼働であることを示唆している。
前出の竹村副社長によると、昨年三月の震災後、都内の企業の多くは十分な節電準備も出来なかったにもかかわらず、照明を落とす程度で、一~二割の電力を削減できていたという。
「東電管内の企業は省エネでコストも削減できる事を経験した。節電は企業活動にとってマイナスばかりではない」と指摘しながら続ける。
「結局のところ、電気が足りるかどうかは、再稼働とは関係ない。電力事業者が昨年、禁断の計画停電を強行して東日本にショックを与えた。それを関西での再稼働への材料に使っている」。この手法は関西電力管内にとどまらない恐れがある。
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「確証なき安全宣言 「大飯再稼働すべき」 首相、来週にも決定」2012/06/09(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012060902000145.html
野田佳彦首相は八日、官邸で記者会見し、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機(福井県おおい町)に関し「再稼働すべきだというのが私の判断だ」と表明した。東京電力福島第一原発事故の原因究明が途上にもかかわらず、首相は夏の電力確保や原発の継続性を重視。福井県の理解を得る前に最終決断の意思を示す必要があると判断した。国民に広がる安全への不安を解消できないまま、政府は再稼働に突き進み、来週にも最終決定する。
首相は再稼働の必要性を「原発を止めたままでは日本の社会は立ちゆかない」と強調。「(関電管内が)計画停電になれば、命の危険にさらされる人、働く場がなくなってしまう人も出る。国民生活を守る。私がよって立つ唯一絶対の判断の基軸だ」と述べた。
再稼働した場合の安全面では、専門家による議論を重ねたと説明し「福島を襲ったような地震、津波が起きても事故を防止できる」と断言した。
周辺自治体が求める夏場限定の再稼働にとどめる可能性は「夏限定では国民の生活を守れない」と否定した。
大飯原発以外の再稼働方針は「個別に安全性を判断していく」と述べるにとどめた。
福井県の西川一誠知事は首相の会見を評価し、十日に再稼働の安全性を検証する県原子力安全専門委員会を開く。同委と県議会、おおい町の意見を聴き、再稼働の同意を判断する。政府は知事の同意を受け、首相と関係三閣僚の会合で再稼働を最終決定する。
■「事故防げる」根拠どこに
東京電力福島第一原発事故を受けた緊急安全対策により、重大事故は起きないはずだから、「念のため」の対策はとりあえずなくても大丈夫-。
政府が強調する大飯原発の安全性とは、この程度のものだ。崩れた「安全神話」への逆戻りそのものだ。
完了したのは、非常用の電源や冷却ポンプの多様化など必要最小限の対策までだ。
実際の事故のとき、被害をどう最小限に抑えるか、これらを検証する安全評価(ストレステスト)の二次評価は、関電を含め一社も評価をしていない。
政府は、再稼働を優先し、重要な対策でも時間のかかるものは先送りを認めた。
まずは免震施設。福島の事故では最前線基地となり、現在も現地対策本部が置かれている。「あれがなかったら、と思うとぞっとする」。東電の清水正孝前社長が八日の国会事故調でこう語った施設だ。それでも当初の放射能防護は不十分で、作業員たちを十分には守れなかった。
だが、大飯原発にはそれもなく、整備は三年先のこと。不十分な代替施設でしのぐしかない。
福島では、格納容器の圧力を下げるため汚染蒸気を外部放出するベントを迫られた。
大飯原発の格納容器の容量は、福島第一の数倍あるが、ベント設備がなく、放射性物質を除去するフィルターもない。これも設置は三年ほど先という。
福島では、原発の熱を海に逃がす海水ポンプが破壊された。ポンプを守る防潮堤が大飯原発にも造られるが、来年度のことだ。
原発の外も、重要な問題が山積みだ。
大津波が来れば、海近くの低地にある大飯や高浜原発の両オフサイトセンター(OFC)はひとたまりもない。政府は福井県内に敦賀、美浜両原発のOFCがあるから、とのんびり構えている。
放射能汚染が広域に及んだ反省から、重点防災区域を原発の半径三十キロに拡大する方針が既に出ているが、モニタリングポストの設置や安定ヨウ素剤の備蓄も遅れている。福井県の住民避難計画も、隣の滋賀県や京都府と連携せず、県内にこだわった柔軟性のない計画のままだ。
こんな状態で安全と言えるのか。「国民生活を守る」と言いながら、原発事故が起きれば、多くの人の生活が脅かされる。ほんの一年前の苦い記憶を忘れている。 (鷲野史彦記者)