日曜日, 6月 17, 2012

[てんさい]野田首相の再稼働演説を「謎解き」する(東京新聞「こちら特報部」2012/6/14)

「再稼働圧力がどこから出てきたのかと考えると、経団連や大企業だけでなく、米国からもあったのでは」(田中優子氏)

「(野田氏は洗濯機のカビ。) 洗濯槽にはカビが生えやすいが、少しくらいなら、ほっておく人も多い。でも、ある限界を超えると、突然手が付けられないほど大繁殖し、手遅れに」(素人の乱 松本哉氏)

「『国家を守るために国民を犠牲にする決断をした、本当は国民のことは考えていない』って言うべき」(柄谷行人氏)

「こうした言い方は詭弁を弄する際の基本。なぜなら、本来並び立つものではないから」(内田樹氏)

「薬物をやめない言い訳を滔々と主張する薬物依存者の姿に似ている」(宮崎学氏)

「野田首相は電力会社の広告塔」(高村薫氏)

転載します。

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国会では、十三日も大飯原発再稼働についての質疑があったが、野田政権は「馬耳東風」に徹した。政権はひたすら儀式を重ね、再稼働へと突き進んでいる。首相が国民に直接訴えたいと開かれた八日の記者会見。そこでの演説からは、論理も倫理も欠いた政治が浮き彫りになった。危機の所存を識者の皆さんに「謎解き」してもらった。 (上田千秋、小倉貞俊)


「首相の話は、地震国日本に立地する原発そのもの。土台がしっかりしておらず、すぐに崩れてしまう」。法政大の田中優子教授(江戸学)はそう切り出した。

「一番不自然だったのは『計画停電を余儀なくされ、突発的な停電が起これば…』という部分。突発的な計画停電なんてないのに。原稿を書いた官僚が『優秀なのは自分たちだけ。それ以外の人間はバカだから、この程度の内容でだませる』と思ったんでしょうね」

田中さんは「再稼働圧力がどこから出てきたのかと考えると、経団連や大企業だけでなく、米国からもあったのでは。中国をけん制するため、いつでも日本は核武装できるという態勢にしておきたいはず」と話した。

東京・高円寺のリサイクルショップ「素人の乱」の店主で、脱原発デモを催す松本哉さんは、再稼働の演説をする野田氏の姿が「洗濯機のカビ」に重なったという。

「洗濯槽にはカビが生えやすいが、少しくらいなら、ほっておく人も多い。でも、ある限界を超えると、突然手が付けられないほど大繁殖し、手遅れになるんです」

野田氏も同様に見えるという。「就任時は影の薄い存在で、誰も気にしなかった。前首相の脱原発依存方針を踏襲していくのかと思っていたが、一気にすべてを振り出しに戻してしまった。『なんだこりゃ、この人、国民の声なんて、何も聞いてないんだな』とあきれ果てましたね」

福島県三春町在住の僧侶で、作家の玄侑宗久さんは「首相会見と掛けて、トイレの後のネコのおしりと解きます。その心は完全に(国民を)なめてます」と苦笑した。

「(大飯原発周辺の)断層が動く可能性についても、政府は原子力安全・保安院の見解をうのみにするだけ。想定外の事態が起こり得るという発想がなく、福島の経験から何も学んでいない。『国民の生活を守る』といった言い回しも、官僚が書いた原稿を読んだだけなんでしょうね」

文芸評論家の柄谷行人さんは「よくもあれだけ空疎なことが言えたと思う。『国家を守るために国民を犠牲にする決断をした、本当は国民のことは考えていない』って言うべきだ」と憤る。

「原発は国家にとって資本のエッセンスみたいなもの。国民より国際競争力が大切で、原発をやめたら経済的に不利になるから、国民はしばらく我慢しろというのが本音だ。小泉政権も『国民も痛みに耐えろ』と言ってたが、それと同じだ」

首相の「まさに私の責任で」というくだりは「振り付けた官僚が内心『こいつに責任を負わせればいい』と考えたように聞こえた」と皮肉った。

神戸女学院大名誉教授の内田樹さんは「あの演説が学生のリポートなら零点だ」と酷評した。

首相は『国民の生活を守る』という言葉を、原発の安全性確保と経済への悪影響の回避という二つの意味で使った。

内田さんは「こうした言い方は詭弁(きべん)を弄(ろう)する際の基本。なぜなら、本来並び立つものではないから。詭弁は学生に使うなと教えている。両者を並べて考えた結果、後者を優先したと説明すべきだった」と説明する。

「国の根幹の政策を決める会見で、首相がトリッキーな言い方をするのはまずい。必要な理由を諄々(じゅんじゅん)と説かれれば納得する人もいたと思うが、いくらなんでもひどい」

作家の宮崎学さんは首相演説を「薬物をやめない言い訳を滔々(とうとう)と主張する薬物依存者の姿に似ている」と表現した。

「原子力を国策にしてきたこの国では、原発推進こそ首相が堅持しなければならない最重要テーマ。いったん首相官邸に入ると取り込まれ、誰もが原発に関する重度の依存症になってしまう。いわば『原発中毒』だ」

さらに「もはや思考停止の状態。電力供給が足りないなら、政治の力でその分の需要を抑えればよいだけ。国民に対する恫喝(どうかつ)でしかない。3・11が科学万能主義の安全神話に問題を提起したのに、理解しようという姿勢はゼロ」と切り捨てた。

大阪府在住で、原発をテーマにした著作もある作家の高村薫さんは「野田首相は電力会社の広告塔であり、ただのしゃべる人形」と批判した。

「『安全は確保されているものの、安全判断の基準は暫定的なもの』という部分など明らかに矛盾している内容なのに、野田さんは滔々と話し続けた。官僚の作文にせよ、自分が発表する文章なんだからおかしいと思わなきゃいけない」

「私の責任」という点については「この人はいつまで首相をやるつもりなんでしょうね」。

「消費者として関電のやり方には不満を持っている。節電する方法はいくらでもある。関西に限らず、節電している人は全国にたくさんいるし、続けないといけない。政府は大飯を皮切りに他の原発も動かすつもり。生活を脅かすような事態は起きないと示さねば」

◆勘違い おさらい

各方面から疑問の声が上がった野田首相の再稼働演説。その勘違いをあらためて指摘しておきたい。

再稼働問題が「国論を二分」というが、早急な再稼働には圧倒的多数の国民が反対している。

「慎重には慎重を」という安全性については、原子力安全委員会の班目春樹委員長ですら、根拠である「安全評価(ストレステスト)の一次評価」だけでは、再稼働に不十分という立場だ。

さらに免震重要棟の建設やベント装置、予備電源の設置など、災害対策に不可欠な設備の着手はこれから。再稼働してすぐに大事故が起きてしまえば、対応できない。

電力需給についても、停電となれば「働く場がなくなってしまう」というが、福島原発事故では仕事のみならず、故郷や家族との暮らしを失った人たちが続出した。

関西での「15%の電力需給ギャップ」という数字も持ち出したが、関西電力自ら大阪府市エネルギー戦略会議との席上、「5%の不足」という数字を提示している。

「石油資源の七割を中東に頼っており」と強調したが、火力発電燃料の主力は現在、石炭や液化天然ガス(LNG)で石油は一割にすぎない。

加えて、火力発電はコスト高という経済的な圧迫にも言及したが、使用済み核燃料の処理費用を含めれば、原子力の発電コストの方が高くつくことはすでに明らかだ。


<デスクメモ> 反骨の弁護士、山崎今朝弥翁は関東大震災直後の朝鮮人や労働者の虐殺事件で、こう憤慨した。「噴火口を密閉したのみで安泰だと思ってるは馬鹿(ばか)の骨頂だ。何時(いつ)か一時に奮然として爆裂するは当然過ぎるほど当然…」(『地震・憲兵・火事・巡査』)。この言葉を野田首相に贈りたい。(牧)